追悼 鶴見俊輔

公開日: : 起業・ベンチャー

2015072501

私は、自分の内部の不良少年に絶えず水をやって、枯死しないようにしている

鶴見俊輔が亡くなった。つい最近まで積極的に発言をしていた印象があるが、このところは体調が悪いという話を聞いていた。90歳を超える高齢ということもあり、驚きはないものの、またひとつ巨星が墜ちたという感慨はある。私にもありきたりな青春の苦悩を抱えていた時期はあり、その時に森有正や大岡昇平とともに、心の支えとなった人だった。

父との関係と反戦

鶴見のこれまでの活動を見ると、誰でも分け隔てなく尊重し、情に厚い印象がある。
そんな彼が、最晩年に至るまで父親、鶴見祐輔を悪し様に非難し続けた事は意外に思えた。父親が国策におもねり、戦争に積極的に反対しなかった事を、鶴見は大変な屈辱であったといい、その事を修正許す事はなかった。

肉親の情がなかったわけではないだろうと思う。とうの昔に亡くなった父親に対して、彼は折々で攻撃していた。私はその事を、偉大な父親への反発から生じた、オイディプスコンプレックスの一典型ではないかと疑ったが、改めて振り返り、そうではなかったと思い直した。
人を殺したくないという原初の感情とそれ故にあらゆる戦争を拒絶するという倫理的な立場が、父親への徹底的な批判につながっていたのである。その点、彼は潔癖だった。

「ベ平連」の活動はベトコンへの共感があった。脱走した米兵を支援した時は、米兵の良心への共感があったろうと思う。彼の平和主義は、自身の生存の問題として捉えられているのではなく、もっと根源的な倫理として存在している。それだけに、時代の状況に左右されていない徹底したものになった。
もし、現在の安保法案への反対活動を健在な鶴見が見たら、積極的に支持するだろうと思われる。しかし、かつての鶴見や小田実らの活動、思想と比べると、現代のそれらは単なる社会への不平不満にしか私には見えない。その原初に、倫理ではなく、自身の利益が見えるからだ。

内面のせめぎあいは、生きている限り私たちの内部にある。それがあってはじめて、反戦の姿勢は逆風にあっても保たれる(鶴見俊輔『思い出袋』)

こんな「内面のせめぎあい」を持たない主張が、興奮の渦中から覚めた時、果たして持続力を持ち得るのか。私は疑わしいと思っている。

転向を繰り返す人々

鶴見の言葉で、印象的なものに、日本のエリートは絶えざる転向の常習犯となるというものがある。
明治以来、日本の学校制度は、先生が問題を出し、生徒は先生の考える「正しい答え」を答えようとする。大学を卒業するまでの十数年間、問題は与えられるもの、その答えは先生が知っていて、それも与えられるもの、という習慣を繰り返すと、自分で問題を作り、その答えを考えるという力が身につかなくなる。

先生が変わると、その先生が望む答えを生徒は答えようとする。それを鶴見は 「転向」と呼んだ。望まれる答えを出そうとして、絶え間ない「転向」を行うのが、日本の知識人の特徴だという。日本の知識人の記憶は短い傾向がある。
恥じる事なく「転向」し、安易に答えを求めてしまうのが我が国の知識人の典型なのだ。しかし、簡単に答えの出る問題は決して多くはない。鶴見は、「転向」を非難し、自身の信条を貫く人を愛した。そして、自身も安易な答えを与えられることを拒絶した。徹底して思索し、「内面のせめぎあい」を抱えながら、答えを探し求めた人だった。そこには人間の悟性への深い信頼があったように思う。

オールタイムベスト

内外の夥しい文献を読み、広範な知識を持つであろう鶴見が、「オールタイムベスト」として、自分がこれまでに読んだもののうち、心に残ったものをあげるという試みを行っている。2003年の話だ。

そのベスト5に、岩明均『寄生獣』が入っていることに驚いた記憶がある。彼がこれまでに出会ってきた膨大な本に比べて、このマンガが優れていると言い得ることに動揺すら感じた。この時、私は『寄生獣』を読んだことがなかった。
このことをきっかけに私も通読したが、鶴見がベスト10に入れている『史記』や『カラマーゾフの兄弟』をしのぐとは今も思えない。ただ、権威に左右されない、彼のフラットで自由な視点がよくわかるエピソードだといえるのではないだろうか。
圧倒的に幅広く、人の叡智とは何かを教えてくれる人だった。中心人物でもあった「9条の会」の活動からは、鶴見の本質的な考え方、真価はわからないだろうと思う。彼はドグマとは無縁だった。

最晩年の鶴見俊輔が、どのような言葉を発したかはわからないが、将来を悲観してはいないだろう。人の叡智への信頼は失われていないと思うからである。

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